米国は、世界最大の経済大国ですが、いまからほんの150年余り前には、泥沼の内戦状態にありました。南北戦争(1861-1865)です。一説によると、百万人以上が死亡したとも言われ、それは大変な大戦争でした。
いま米国は再び、分断の危機にあります。対立軸は、トランプ支持者とバイデン支持者、共和党と民主党、保守とリベラル、右派と左派、白人と黒人といった対立関係です。
完全武装のデモ隊
ただここで、日本人が見逃しがちなのは、両者がデモ活動をする際、両者ともに軍隊並みに完全武装をしてデモを行うことがあることです。そのため、これまでウィスコンシン州とワシントン州では、武装デモ隊が関与した衝突で死傷者も出ています。
こうしたデモの様子を、現地映像で見ると、保守系のデモ隊がサブマシンガンを胸にかけて完全武装することがあるだけでなく、リベラル系のブラック・ライブズ・マターに近いデモ隊も同じように完全武装する場合があることが分かります。
そして、日本人にとって違和感があるのは、こういう武装デモ隊を、警察が一切取り締まろうとしないことです。これは、なぜなのでしょうか。
「武装権」という憲法が保証した国民の権利
警官が武装デモ隊を取り締まろうとしない理由は、米国では、憲法が国民に「武装権」という権利を保証しているからです(上掲の一番上の動画では、デモ隊がこの点を警官に主張しています)。そのため、警官はこのようなデモ隊を武装解除することができません。
規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。
(憲法修正条項第2条)
実は、この武装権は、米国の建国理念の一部を構成する非常に重要な市民の権利です。米国という国は、欧州の絶対王政の圧迫から逃れてきた一般市民が、草の根レベルで建て上げた国です。そのため、市民には、軍や警察の圧迫を退ける自衛権が与えられており、武装権はその延長線上の権利なのです。
平たく言えば、米国憲法は、理不尽な圧迫に対しては、武力を使って抵抗していいということを、市民に保証しているわけです。
「武装権」の乱用に対する懸念
本来、この武装権は基本的人権を守るための権利です。しかし、現在の米国を見ていると、この武装権が本来の目的から外れて行使されるのではないかという危うさを感じます。
米国の武装権は、不可侵の尊い権利です。ですから、大事なのは、武装権を議論し直すことではなく、ここまで対立が激化した原因を探り、その問題を緩和、除去することです。
いま米国民の多くが懸念していることは、選挙後に選挙結果に不満を持った一方の支持者が、この武装権を乱用して、本格的な武力蜂起を起こすことです。
すでに、一部の政治指導者は、この武装権の乱用を黙認し、衝突を煽っている兆候があり(参考記事)、この懸念は決して非現実的なものではありません。
ですから、いまから対立の根本原因にメスを入れるなど、予防的な措置をとっていかないと、本当に第二次南北戦争のような事態になりかねないと思います。