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マイクロソフトのTikTok買収、投資家にとってのメリットは?

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マイクロソフト(MSFT)が、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業の買収計画を進めています。トランプ政権も、いったん否定的なニュアンスを表明したものの、9月15日までに買収が成立するならば、これを承認すると言っています。

現時点では、TikTokの親会社である「バイトダンス(北京字節跳動科技)」が売却にあまり前向きでないという報道もあり、買収が成功するかどうかは未知数ですが、仮に成功した場合、この買収はマイクロソフトにとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。

きょうは、マイクロソフトに投資している人、投資を考えている人にとって、TikTok買収がプラス材料になるのかという視点から、この買収計画について考えてみたいと思います。

TikTokの買収効果は微妙か

最初に結論を言ってしまうと、マイクロソフトへの投資という観点からは、少なくとも短期的には、TikTok買収のメリットは微妙と考えざるを得ません。理由は以下のとおりです。

TikTokにはユーザー側に収益化手段がない


現時点で、TikTokには動画投稿者が広告収入を得る仕組みがありません。また投げ銭のような仕組みもありません。TikTokに広告は出ますが、この広告費は全部TikTokに入るだけです。このことは、TikTokが無数のユーザーを巻き込んで、収益を累乗的に拡大していくYouTubeのようなビジネスモデルを構築できないことを示しています。

TikTokではビジネス系のコンテンツが作りづらい


TikTokの動画の長さは原則、15秒です。このことは、ビジネス系動画のような付加価値を生むコンテンツを上げづらいことを意味しています。TikTokは、現時点で若い人が純粋に面白い動画をアップして楽しむ媒体として認識されていますが、15秒という枠は、TikTokが何か新たな付加価値を生み出す媒体ではなく、消費して終わりという以上の存在にはなれない可能性を示しています。

TikTokのユーザーは平均年齢が若い


TikTokは、動画投稿者も視聴者も平均年齢が10-20歳代と若いです。このことは、投げ銭制度を作ってもうまく機能しないこと、また有料サブスクリプション・モデルを導入しにくいことを示唆しています。近年、多くの媒体では、収益手段を広告からサブスクへ移行させる動きが見られますが、この波に乗れない可能性があるということです。

なぜマイクロソフトはTikTokをほしいのか?

それでは、このようにいくつか問題があるにも関わらず、なぜマイクロソフトはTikTokを買収たいと思っているのでしょうか。それはおそらく、純粋にSNSがほしいからなのではないかと考えられます。

マイクロソフトは、これまでクラウドサービス事業の柱としてAzureを大きく成長させ、実質的な切り売り製品だったOfficeをサブスクリプション製品に生まれ変わらせて、経営を劇的に改善してきました。私は個人的に、マイクロソフトは非常にうまくやっていると思います。それは近年の株価の動向見ても一目瞭然です。

しかし、マグロが泳いでいないと死んでしまうのと同様に、企業も進化しないと衰退します。そのため、すでに多くのものを手にしたマイクロソフトが、あえてTikTokを有望なSNSとして目をつけたのは不思議なことではありません。

しかし、TikTokをビジネスとして大きく成長させていくのは大変です。当然、1億人の米国内のTikTokユーザーに、OfficeやAzureを売り込む販路は作るでしょう。ただTikTokのユーザーは10-20歳代というお金のない若者です。少なくとも短期的に収益化するのは難しいでしょう。

ただ、あえて意図的に、中長期視点から若年層を顧客として取り込む動機でTikTokを買うのであれば、それはそれで合理性の高いディールとして、のちのち評価される可能性はあります。

今後、マイクロソフト投資家が見るべきポイント

以上のように、やや厳しい要素もあるので、現時点で今回の買収がマイクロソフトへの投資にとってプラスになるのかと言うと、やや微妙と考えざるを得ません。

しかし、今後、買収の算段がついたあとで、マイクロソフトがTikTokを利用して何がしたいのか、そのビジネスプランを公表し、その内容が市場の想像を超える内容であれば、株価にはプラス材料として織り込まれるものと思います。

ただ、ビジネスプランの内容が世間の想像を上回るものでなければ、短期的には魅力的な材料とはならず、この買収は、マイクロソフトがTikTokを中長期的にじっくり育てていくために買ったのだとしか解釈しようがないモヤモヤした展開になると思います。

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