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米民主党と共和党、こんなに違う経済政策

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大統領選挙が佳境に入ってきました。きのうは、民主党の大統領候補として、ジョー・バイデン氏が正式に指名されました。これに対して、トランプ氏も口撃を強めています。

ところで民主党と共和党では、経済政策に根本的な違いがあります。そのため、どちらが勝利するかによって、今後の経済政策が変わり、米国経済の先行きも変わってきます。

きょうは、このあたりを深堀りします。

共和党は「自由」を重視、民主党は「公平」を重視

民主党と共和党では、政党の理念に根本的な違いがあり、これが経済政策にもはっきり現れます。

最初に結論を言うと、共和党は自由を重視、民主党は公平を重視しています。

自由と公平というのは、よく一緒に語られたりしますけれども、実は自由と公平は真逆の概念です

自由を追求すると、公平が損なわれ、公平を追求すると、自由が損なわれるからです。自由と公平はトレードオフの関係にあると言うと、より正確かもしれません。

この違いが、両党の経済政策にどのように現れるか具体的に説明します。

共和党は「自由」を重視

共和党は、経済活動の自由を重視しています。

そのため、努力して金持ちになった人からお金を税金として取り上げて、貧乏な人に分けてあげるようなことは好みません。法人や富裕層への税金もあまり増やさないようにしています。

またそもそも、税金をできるだけ取らずに、国民に自由に経済活動をやらせるのが一番良いという基本理念があります。経済学で言えば、アダム・スミスにルーツのある古典派経済学の考え方です。

社会保障にも、同じ考え方を適用します。たとえば、医療保険を国民皆保険のような強制加入型にすると、所得から一定の保険料が強制的に引かれてプールされ、それが、他人である病気になった人の医療費に回されるので、共和党はこれを自由の制限と考え、嫌います。

共和党は、医療保険はそれぞれ個人の判断で入るか入らないか自由に決めるべきで、それを政府が国民に強制するのはおかしいと考えるわけです。

このような考え方を貫くので、傾向として、既得権益のある人、具体的には白人の富裕層、また昔ながらの米国の伝統を重視する人、具体的には地方に住む白人、つまり保守層に多くの支持者がいます。

民主党は「公平」を重視

これに対して、民主党は公平性を重視しています。

経済的に豊かかどうかは、実力だけでなく、環境も左右するという考え方をするので、所得の再分配に積極的です。つまり、税金を通して、富裕層から貧困層に所得を移転し、公平を図ることを好みます。

ここには、経済活動を市場に委ねて放置したら、いろいろ弊害が出てくるので、そこは政府が積極的に関与して是正すべきであるとするケインズ経済学の考え方がベースにあります。

社会保障についても同様で、国民皆保険制度の導入に積極的です。米国では、「普通の人がガンになると、ホームレスになる」という表現があるほど、保険に入っていない人が破産してしまうことが頻繁に起きます。民主党は、こういう悲劇をなくしたいと思っています。

このような考え方を貫くので、一般的な傾向として、いわゆる社会的弱者、具体的には黒人、ラティーノ、移民、また進歩的な考え方をする人が多い都市部の高学歴の住民、つまりリベラル層に多くの支持者がいます。

このように、共和党と民主党は、それぞれ自由と公平という真逆の概念を志向しているので、支持層も上記のように分かれます。

しかし、人間心理の中には、自由も公平も両方大事と考える気持ちがあります。そのため、そういう中間的な考えをする人は、中道派(centurist)と呼ばれ、状況に応じて支持政党を変えるので、選挙の際は浮動票層(swing voters)となります。

今後のシナリオ

バイデン民主党政権誕生の場合

法人と富裕層への税率が上がると思います。また、オバマ政権下で進められた医療保険の国民皆保険の再導入も試みられるでしょう。

新型コロナ対策の費用も増額されますが、これが実施できるかどうかは議会で民主党が過半数を取れるかどうかにかかっています(参考:「2020年 米議会選挙」)。

また、クリーンエネルギーの導入を強化し、気候変動対策のパリ条約にも復帰するでしょう。

対中政策については、「バイデンは中国に甘い」という警戒心が市場に出てきているので、意外と現在と同程度の厳しい政策を貫く可能性があります。

さらに民主党は、「人権外交」という他国の人権侵害を告発して、それをテコに自分の要求を主張する外交アプローチを取ることがあるので、そうなると米中関係は今より冷え込む可能性があります。

また、新型コロナ対策では、財政支援の規模をさらに拡大し、金融政策でもFRBの量的緩和政策を強く後押しする可能性があるので、中長期スパンでインフレ懸念が出てくる恐れがあります。

共和党トランプ再選の場合

トランプ氏の政権運営をめぐっては、共和党支持者の間にも疲れがあり、民主党支持者には怒りがあります。そのため、米国の分断、相対的な地位の低下が、より一層進む可能性があります。

地方の人種暴動も収拾できず、治安が悪化する都市も増えるものと思われます。経済格差もどんどん広がっていくでしょう。

議会選挙で上下両院で民主党が過半数を取れば、弾劾(解任)の動きが再燃する可能性が高くなります。

ただ忘れてならないのは、何だかんだ言って、トランプは、今でも地方の保守層には根強い人気があるということです。

彼は古き良きアメリカを体現する人で、たとえそれが時代遅れだとしても、その価値観にしがみつく大勢の保守層には熱狂的に支持されているのです。

善悪の問題ではなく、トランプが好きな人が大勢いるのが現実だということです。

だから、トランプがもう4年やることには、多くの人がうんざりしているように見えて、フタを開けてみたら、トランプが勝っていたということは十分にありえます。そして、今後4年も何となく過ぎていくということはあり得ることです。

ただトランプは、新型コロナ対策で専門家と協調できないなど、この死活的な課題にうまく対応できていません。そのため、トランプが再選された場合、4年かけて米国経済がどんどんダメになっていく可能性があります。そして、これは徐々に相場にも現れてくると思います。

以上、共和党と民主党の考え方の違いでした。ニュースでは、いろいろ細かい情報がたくさん出てきますが、「共和党は自由を重視、民主党は公平を重視」という切り口で見ると、あらゆる情報をすっきり整理することができます。

このように、物事の核心を突いて単純化することは、情報の洪水で溺れないために、とても大切です。

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