副大統領候補の討論会
きのうの日本時間の午前、マイク・ペンス副大統領(共和党)と、カマラ・ハリス上院議員(民主党)の二人の副大統領候補による討論会がありました。
前回の大統領選挙と比べて、多少は中身のある政策論争ができたので、両陣営の違いが浮き彫りになって良かったと思います。
具体的には、新型コロナ対策については、ハリス候補が「現政権は、21万人の犠牲者を出した」ことを指摘し、トランプ政権の失策を挙げ連ねました。ペンス候補はあまり効果的な反論ができず、あのような上司に仕える難しさをにじませました。
経済政策では、ペンス氏が「民主党政権ができたら、初日から増税するだろう」、「グリーン・ニューディール(温暖化対策)に2兆ドル支出するだろう」と指摘し、民主党の政策が想像以上に左寄りであることを印象づけました。
表面的な印象としては、ペンス氏は、トランプ氏の尻拭いをしながら、相手の攻撃もしなければならなかったためか、表情がこわばり余裕がないように見えました。
他方、ハリス氏は、絶えず微笑んでおり余裕があるように見えましたが、結果的には互角だったと論評するメディアが多いようです。
私が個人的に感じたことは、ペンス氏が逆風の中、予想以上に健闘し、もしいまトランプ氏がペンス氏に禅譲して身を引いたら、共和党が形勢を逆転するのではないかとさえ思いました。
トランプ氏の致命的な欠点は、新型コロナ問題を明らかに軽く見ていることと、国内融和を図る政治意思と熟慮がないことですが、ペンス氏にはこの2つの欠点がありません。そして、トランプ氏の長所、具体的には経済政策と外交政策を支える理念も共有しています。その意味で、この人が大統領になるのが一番良いのではないかという気さえしました。
景気刺激策(新型コロナ追加支援策)
連邦議会で、民主党が2.2兆ドル、共和党が1.6兆ドルの予算規模をそれぞれ主張して、両者が全く妥協せず、長いこと審議が膠着状態に陥っていました。
トランプ大統領はこの点を突いて、6日(現地時間)、審議を直ちに停止し、大統領選挙まで審議を延期するよう指示しました。この直後、株式市場も急落しました。
しかしその8時間後には、経済団体からの批判もあったためか、トランプ氏は前言を翻し、失業者個人への現金給付と航空業界への支援という限定的なパッケージなら、すぐにサインするので予算案を持ってこいと態度を変えました。
相変わらず乱暴な手法で、市場も振り回されてばかりですが、この小さなパッケージであれば、何とか承認の見通しが立つとの観測が広がっています。
また、今後の新型コロナ支援策の打ち出し方としても、大きな包括予算ではなく、案件ごとの個別予算を、それぞれ審議、承認していく方向へシフトしていくだろうという観測も出ています(参考記事)。
ワクチン&治療薬開発
新型コロナのワクチンと治療薬にも、新しい動きが出てきました。最初に基本的な要点整理として、ワクチンと治療薬の違いを確認しておきたいと思います。
ワクチンは予防薬です。病気にかかっていない人に投与するため、億単位の数量を製造しなければならず、今回のような大規模で緊急性の高い感染症対策の場合、全額を政府が拠出するなど、国家プロジェクトの形を取ります。また国民の大半に投与するため、安全性は極めて厳格にチェックされます。
他方、治療薬は病気にかかった人に投与するため、製造量はそれほど多くないですが、価格が高くなりがちです。そして、とにかく人の命を救うため、薬効に注目しながら、安全性については一定のリスクを取るという現実的なアプローチを取ることが少なくありません。
ワクチンと治療薬の違いを確認をした上で、先にワクチンの開発状況を見ると、開発レースの先頭を走っているのがバイオンテック(BNTX)、次いでモデルナ(MRNA)、後続は団子レースになっています。
現時点でも、全ての開発中のワクチンが全滅するシナリオは消えておらず、承認されたとしても、開発レース1位を走るバイオンテックも大統領選挙前に承認される可能性はないというのが衆目の一致するところです。そのため、このときまで大きなドラマはないと考えて良い状況にあります。
治療薬については、トランプ大統領がツイッターで、リジェネロン(REGN)のモノクローナル抗体の混合薬剤(カクテル)がよく効いたということを強調したため、この薬剤が注目を集めました。
実はこの薬剤は、現時点では未承認ですが、少し前から専門家の間で薬効を確認されており、大統領に投与されたのには、当然、一定の医学的根拠もありました。昨日、同社はこの薬剤の緊急使用許可(EUA)を米食品医薬品局(FDA)に申請したところでもあるので、今後の動向が注目されます。
トランプ大統領が投与されたもう一つの薬剤は、ギリアド・サイエンシズ(GILD)のレムデシベルです。こちらは、もともとエボラ出血熱の薬剤でしたが、新型コロナウイルスへの薬効が確認され、今年5月にすでにFDAに承認されているので、大方の要素はすでに市場に織り込み済みと考えてよいかもしれません。