ニュース解説

米株式市場における新型コロナ、ワクチン、大統領選という3つの変数

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今週は、米株式市場が激しい動きを見せました。月曜晩に開発中のワクチンに関する明るいニュースが出たため、週の前半はハイパーグロース株が急落して、オールドエコノミー株が急騰したのですが、中盤以降では、この動きを切り返す動きが見られました。来週以降は、どのような相場になっていくのでしょうか。

ワクチン開発

日本時間の11月9日(月)の21時頃、バイオンテック(BNTX)とファイザー(PFE)が開発してきた新型コロナ・ワクチンが、治験対象の90%に効果があったとのニュースが入りました。

この瞬間、ズーム(ZM)などのハイテク株が急落、デルタ航空(DAL)などの工業株、消費循環株などが急騰しました。一言で言えば、セクター・ローテーションの兆しが現れたということです。この間、長期金利の指標である米国債10年物の利回りも、0.96%まで急騰しました。

ただ、このニュースがファイザー社のニュース・リリースに基づくもので、政府の承認とは無関係であり、これだけ希望に満ちたニュースであっても、最終的に政府の承認が下りない可能性があることには注意が必要です。

また、たとえ仮に承認が下りたとしても、国民の多くにワクチンが行き渡るには1-2年の期間が必要とも言われています。つまり、はっきり言えば、このニュースには現実を変える力はないということです。

しかし、それでも治験対象の90%に効いたというのは、大衆心理を動かすには十分な要素を含んでいました。そのため、市場はこのニュースに敏感に反応し、セクター・ローテーションの歯車が回転し始めたのです。

ただし、週の中盤ではこの歯車が巻き戻り、ハイグロ株が少し持ち直して、オルエコ株は元の安値に戻りました。しかしそれでも、株式市場は現状を確認するのではなく、将来を先取りして織り込んでいく性質を持っているので、相場の空気が明らかに変化した観があります。

新型コロナの状況悪化

前向きのニュースが出た一方で、新型コロナの患者数は、一般的傾向として北半球全体で最悪の水準を更新し続けており、とくに米国では猛威を奮っています。

全世界の状況 source: worldometer

米国の一部地域では、ロックダウンの動きも出ており、回復の兆しを見せていた実体経済も、再度悪化の道をたどることが懸念されています。早ければ来週にも、上述のバイオンテックとファイザーによるワクチンの緊急使用承認の審査結果が出ると言われており、そのときには承認か否かで二通りのシナリオが想定されます。

  • 承認された場合:改めてハイグロ株下落、オルエコ株上昇、相場全体も上昇。長期金利が上がりすぎた場合は、FRBから何らかのアナウンスメントが出る可能性もある。
  • 承認されなかった場合:ハイグロ株上昇、オルエコ株下落。市場に悲観的なセンチメントが充満し、相場全体が下げる可能性もある。

ざっくり言うと、上記のようなことが想定されますが、承認された場合の方が、相場の動きが複雑になる可能性があります。

その理由は、新型コロナが最悪の状況に達して、実体経済がさらに悪化するという極めて厳しい見通しの中に、「1年後には、実体経済も回復する」という確度の高い好材料が急に挿し込まれるためです。この情報に、相場が短期的にどう反応するかを予測することは困難です。

他方、承認されなかった場合は、上記の通り、ハイグロ株が復活しますが、一縷の望みが立たれて、相場全体が大きく下げる可能性が高いです。しかし、開発中のワクチンは他にもありますから、ほどなくして相場全体も回復するように考えています。

このように、現在、相場は大きな分水嶺に立っています。このようなときに、どういうポートフォリオで臨めばよいかというのは難しいですが、私個人としては、全米型、全世界型のETFの比率を少し増やして、グロース株は超優良株だけに絞り込んで、目前に迫るインパクトを吸収することを考えています。

大統領選

次期大統領は、ジョー・バイデンで決定と言って良いでしょう。現時点で、米国の主要メディアは、バイデン氏306票、トランプ氏232票という選挙人の獲得票数でほぼ一致しています。

source: Real Clear Politics

トランプ大統領は、選挙に不正があったということで、いくつかの州で訴訟を起こしてきましたが、州当局から却下されたり、弁護人団側が訴訟を取り上げたりして、その動きも収束に向かっています。もうあとは、家族や側近が、トランプ氏に「名誉ある撤退」を用意してあげることが大切になってくると思います。

また注目された上院選ですが、最終結果は1月5日のジョージア州での決選投票に持ち込まれたものの、今のところ、共和党が過半数を押さえ、すれすれで「ねじれ議会」が実現する見通しが出てきました(参考記事)。

これらの政治情勢は、すでに市場に織り込まれつつあるように見受けます。つまり、大統領令で可能な若干の増税はあるが、大規模な増税はない、ヘルスケア、クリーンエネルギー政策でもあまり過激な政策は出てこないということです。

私が個人的に注視しているのは、次期政権のGAFAへの対応です。以前より一貫して、民主党主導の下院は、GAFAの解体、事業分割を熱心に議論してきました(参考記事)。

バイデン政権が、この方針に同調するかどうか、まだ十分な情報がありませんが、この一年、米国の株式市場を牽引してきたのはGAFAなので、今後、この点が市場に大きな影響を与えると思っています。

以上、目下の注目点は、ワクチンの緊急使用承認が下りるかどうか、中長期の注目点は、GAFAに対する政策と考えています。

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