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オラクルがTikTok問題を解決しつつある理由

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混迷を続けてきたTikTokの売却問題ですが、ここに来て、オラクル(ORCL)が急に表舞台に出てきて、問題を一気に解決へと導こうとしています。

オラクルと言えば、典型的なBtoBの企業であり、典型的なBtoCのTikTokと関わりを持つのは意外な感じがしましたが、これまでの複雑な経緯をたどると、その謎が解けます。

きょうは、なぜオラクルがTikTok問題を解決する立場になったのか、今回の出来事がオラクルの株価にどう影響するのか、今回の問題の本質は何だったのかといった点について考えてみたいと思います。

オラクルがTikTok問題を解決しつつある理由

今回の問題については、今までマイクロソフト、ツイッターなどがTikTok買収に関心を持っているという報道がありましたが、ここに来て、急転直下でオラクルが救世主として表舞台に出てきました。

これは非常に意外な展開でしたが、事態の推移を丁寧にたどると、その謎が解けます。大筋を追っていきますと、これまで次のような経緯がありました。

1.米国政府が個人データの流出を懸念

もともと今回の問題が起きた原因は、TikTokが中国企業ByteDance(字節跳動)の事業であることから、米国のTikTokユーザーの個人データが、TikTokのアプリを経由して、中国政府に渡ってしまう懸念があったためでした。

中国には、「中国企業は、中国政府の求めに応じて、あらゆる情報提供をしなければならない」という国内法があり、もし中国政府がTikTokの米国ユーザーの個人情報を提供するように言えば、運営会社のByteDanceは、この要求を拒否できない事情があったのです。米国政府は、この点を問題視しました。

2.トランプ大統領が米企業への売却を指示

このような事情を受け、トランプ大統領は8月14日、TikTok事業を90日以内に米国企業に売却すること、これができない場合は即時に事業停止するという大統領令を出しました。

期限が切られていたので、ごく最近までマイクロソフトなどが必死に交渉してきました。

3.中国政府がアルゴリズムの提供を拒否

8月28日、中国政府は突如、技術輸出に関する規制強化を発表し、このことで事実上、TikTokに含まれるアルゴリズムを米国企業に譲渡することが不可能になりました。

アルゴリズムというのは、TikTokの場合、一つの動画を再生すると、次に再生する関連動画を自動的にユーザーに提示する仕組みのことです。

TikTokが人気になったのは、このようにユーザーの好みに合ったお勧め動画を次々と提示できるアルゴリズムがあったからで、これを譲渡できないというのは、事実上、TikTokを米国企業に売却できないことを意味しました。

想定外の出来事に米国も態度を硬化させ、事態は暗礁に乗り上げました。

4.オラクル登場

そうしたなか、9月13日に突如として、オラクルが問題を打開するとの報道が出ました。その内容は、オラクルがTikTokを買収するのではなく、TikTokの技術提携先(tech partner)になるというものでした。

トランプ政権が了承しているので、買収でなくても、これでデータ流出の懸念が払拭したことは確かです。米国政府、中国政府、ByteDance(字節跳動)、オラクルの4者間で、米国内の個人データの取り扱いについて、何らかの基本合意ができたものと思われます。

オラクルが、このような変則的な形で問題を収拾しつつあるのには理由があります。それは、オラクルのCEO、ラリー・エリソン氏がトランプ氏に政治献金をしており、トランプ氏と懇意だということです。

こうした事情があったので、トランプ氏はオラクルのエリソン氏に信認を与え、政治的なお墨付きを得たオラクルは、中国政府の了承のもと、ByteDanceと核心に触れる交渉ができたというわけです。

以上がここまでの経緯です。なぜオラクルが急に出てきて、問題を解決しつつあるのか謎が解けたと思います。

それでは次に、今回、オラクルがTikTokの技術提携先になることで、オラクルの業績にどのような影響があるのかという点を見ていきたいと思います。

オラクルへのインパクトは?

オラクル(ORCL)は、1977年創業の米国の老舗ソフトウェア企業です。資本金460億ドル、年間売上高400億ドルで、同業ではマイクロソフトに次ぐ規模です。

主にBtoBの形態で、企業向けのデータベース管理システム、クラウド向けサービスを取り扱ってきました。そのため、あまり一般消費者の間では知名度は高くありませんが、あのZOOM(ZM, Zoom Video Communications)もオラクルのクラウドサービスで駆動しているので、老舗でありながら、極めて高い競争力を持つ最先端のIT企業と言って差し支えないと思います。

これらを踏まえ、今回のニュースがオラクルにとって、どのような影響があったか見てみたいと思います。まず、直近1週間の株価の推移を見てみます。

ニュースが出るたびに株価が跳ね上がっていますが、そのあとダラダラと下がっており、持続性のある上昇トレンドは生じていません。

今回のニュースでは、オラクルがTikTokと関わることで、大きな収益がオラクルにもたらされるといった話は聞こえてこないので、その点を反映しているものと思われます。

次にオラクルの過去の成長プロセスを俯瞰的に見るために、株価を1980年代来の超長期で見てみます。

ドットコム・バブルで跳ね上がり、バブルがはじけ、その後は緩やかに上昇という老舗IT企業に典型的なチャートとなっています。

これらのことを総合的に考えると、もし今回のTikTok案件で大きな利益がオラクルにもたらされるといったニュースが出ない限り、今後もこれまでどおり、緩やかな上昇曲線を描いていくものと思われます。

しかし今回、典型的なBtoB企業だったオラクルが、大変なビッグニュースの渦中に放り込まれ、改めて一般に広く社名が知れ渡ったことは、株価的には非常に有利に作用するものと思われます。

ハイテク企業への投資には地政学リスクが付随

今回のニュースは、まだ出来たてホヤホヤの状態であり、今後も紆余曲折が予想され、時間の経過とともに全体像が仕上がってくるものと思われます。

しかし、本質的なポイントを言うと、TikTok問題は、ビジネスの問題というよりも、安全保障問題だということです。それは、この問題の発端が、米国の個人データが中国政府に渡るという懸念だったことからも明らかです。

実のところ、最近のIT企業関係のニュースには、国家安全保障に関わる要素を含んだニュースが少なくありません。

アームがエヌビディア(NVDA)に買収されるニュースも、エヌビディアが米国政府と中国政府の双方に深い関わりがあり、アームが英国企業で完全に米国側であるため、米中関係の緊張を誘う結果となっています。

このように米中冷戦は、半導体というミクロレベルでも闘争が展開しているため、米中冷戦と無関係のIT企業の興亡というのはもはや存在しないほどの状況になっています。

その意味では、ハイテク企業に投資する際には、このような安全保障リスク、いわば地政学リスクも、これまで以上に考慮しなければならなくなったと言えるかもしれません。

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