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米中冷戦、いつか来た道

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今朝の日経新聞に、米国議会が、自国の半導体業界に計2億6千億ドルの補助金を拠出するとの報道がありました。また、米商務省が、米国企業から中芯国際集成電路製造(SMIC)への製品輸出を許可制にするとの報道もありました。

またこれと別に先日、米政府は、「エンティティー・リスト(EL)」という企業のリストを策定し、これに掲載されている外国企業との取引を原則的に禁止するという話もありました。

これらの一連の動きから、米中冷戦がスローガンのぶつけ合いから、具体的な「戦闘」段階へ進んでいることが分かります。

きょうは、米中冷戦の本質は何かということと、米国株投資への影響について考えてみたいと思います。

米中冷戦とは、結局何なのか?

結論を先にいうと、米中冷戦は、米ソ冷戦と同じようなイデオロギー闘争で、経済競争ではありません。

かつて日本と米国は、1980年代に貿易摩擦を抱え、対立が深まったことがありました。しかし、これは経済競争でした。日本も米国も、民主主義と市場経済という同じ理念を標榜しており、同じ価値観を共有していました。そのため、米国も、日本の政治理念を批判することはなく、経済制度の変更を迫っただけでした。

しかし、米国は中国の政治理念を「全体主義」と言い切り、これを明確に批判しています(参考:「ポンペオ演説、中国政府と中国国民の分断を狙う」)。

全体主義とは、端的に言えば、その国の政府の利権を最優先し、その利権のためならば、自国民の権利、他国の主権、他国の国民の権利などすべてを犠牲にする政治理念です。「国家全体の利益」を追求するという外見をまとっているのですが、「政府の利益」を追求するというのが実態であり、歴史的にも事実です。

そして、全体主義は、その国の政府の利権にすべての利益を集中させる過程で、他の国々にも侵食して、その利益や権利を食いつぶす性質を持っています。この点は、戦前のドイツ、スターリン時代のソ連を見ると、分かりやすいと思います。

そして、全体主義を考える上で、非常に大事なポイントは、これを推進しているのは、その国の政府であって、国民ではないという点です。国民は、むしろ犠牲者なのです。そのため、先ほど挙げたポンペオ国務長官の演説も、この点を明確に区別していました。

米国は民主主義を標榜し、中国は全体主義を標榜しているわけですが、この二つは実際にどのように違うのでしょうか。

単純化して言うと、民主主義は国民一人ひとりの「個人の人権」をできるだけ尊重する理念です。他方、全体主義は先ほどの通り、「政府の利権」を最優先する理念です。米国と中国は、経済的な競合関係もありますが、それ以前に政治理念が根本的に違い、これが最大の対立原因となっています。

米国も同じことをやっている?

このように中国を批判すると、米国にも似たようなものだという指摘を受けることがあります。確かにそういう側面はあります。

一つ例を出すと、米国は世界一洗練された諜報機関を持ち、全世界の電話やメールを調べ上げているということが言われています。どこからどこまで本当かは、当事者にしか分かりませんが、私達のプライバシーが、かなり筒抜けであることは間違いないと思います。

ですから、中国製のソフトウェアにバックドアがあるとか、そういうことにケチを付けるのはおかしいのではないかという意見も、もっともかもしれません。たしかに、米中両国ともにやっていることは似たようなものです。

しかし、大きく違う点があります。

それは、こういうことをやっている目的が違うということです。中国は、政府の利権を侵す要素をあぶり出す目的で、電話やメールを調べ上げるということをやっているわけですが、米国は個人の人権を侵害する要素をあぶり出す目的で、同じことをやっています。

その証拠に、一例として、米国で反政府活動をやった人の大半は、最悪でも少し勾留されるだけで、無事で済みますが、中国で反政府活動をやった人は無事で済みません。

米国で反政府活動をやると、それは個人の人権を守るための体制秩序を乱したという一点で調べられるだけで、それ以上のことはないのです。ここに、それぞれの政府が何を最も大事にしているかが示されています。

突きつけられる二者択一

米国政府は、米中冷戦がイデオロギー闘争、つまり理念の戦いであることを当然自覚しており、妥協するつもりはありません。

米国は、欧州で迫害された人々が、欧州から命からがら逃れて作った国で、個人の人権の大切さが、国家のDNAに刻み付けられた国で、この点については一切の妥協がありません。そのため、この戦いは、仮に政府が代わっても、米国が勝利するまで延々と続きます。

その間、米中のデカップリングは進み、世界は米国の陣営と、中国の陣営に分断されることになります。ここで大事なのは、この戦いでは中間に立つことはできない、どちらかの陣営に入る以外の選択肢はないという点です。

日本は、中国と地理的に近く、文化的にも関わりが深く、経済的な関係も広く構築されています。しかし、これも今日の報道ですが、中国企業と取引のある東芝系の半導体会社が上場を諦めたというニュースがあり、日本も少しずつ米国陣営に加わる方向へ舵を切りつつあることが分かります。

もともと存在しているビジネスの関係を断ち切るわけですから、単なる売上や利益の減少といった次元を超えて、雇用にも影響が出る恐れはあり、非常に難しい決断だと思います。

しかしこの問題は、先述のように、究極的に自分の人権に帰結する問題なので軽い問題ではありません。ですから当然、この問題は株式投資家としても突きつけられていると感じています。私も個人的に、中間に立つのはモヤモヤして気持ちが悪いので、この点は運用銘柄にも反映させようと思っています。

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