ニュース解説

米最高裁人事、米大統領選と株式市場に重大なインパクト

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先日、米最高裁判事のルース・ギンズバーグ氏が亡くなりましたが、米国メディアは、その後任人事のことでもちきりです。

理由は、この人事が今度の大統領選、ひいては今後の米国株式市場の行方も左右するからです。日本ではあまり報道されていませんが、この問題は米国の政治、経済、マーケットに重大な影響を及ぼすため、きょうはこの話題を改めて取り上げたいと思います。

最高裁判事の人事がなぜ大切か?

米最高裁判事だったルース・ギンズバーグ氏は、若者を含め、米国民に広く愛されたアイコンのような存在でした。そのため、逝去のニュース自体も全米に衝撃を与えましたが、それ以上に大きなインパクトを与えているのが、後任人事の行方です。

米最高裁は、リベラル派であるギンズバーグ氏が健在だったときは、定員9名のうち、保守5名、リベラル4名と辛うじて、保守とリベラルのバランスが保たれていました。

しかし、最高裁判事は大統領の指名と上院の承認で決まるため、もし保守・共和党のトランプ大統領と、同じく共和党が過半数を占める上院が結託して大統領選前に新判事を決めれば、保守6名、リベラル3名と、保守とリベラルのバランスが大きく崩れます。

最高裁判事の任期は終身で、20年以上の任期を務めることも多いので、いったん保守とリベラルのバランスが崩れると、移民や銃規制など、国論を二分する判決を通して、米国という国の形を変えてしまうほどの影響が生じます(参考:「米最高裁ギンズバーグ判事が死去」)。それで、米国メディアはこの人事を連日トップで報道しているわけです。

現在の新判事指名をめぐる状況

このような事情があるので、リベラルの民主党は、新判事を選挙前に決めることに猛反発しています。しかし、共和党が一枚岩になって選挙前に新判事を決めるのに躍起になっているかというと、必ずしもそうではありません。

その理由は、バランスを重視する米国の国民性と、選挙への影響を考えているためです。米国は外から見ても分かる通り、自由をこよなく愛する国民性があり、自由を邪魔するものには徹底的に抵抗するところがあります。つまり、自分に支持政党があっても、共和党と民主党の間で適度に権力を分散しておいて、権力が偏らないようにしたいという判断が常に働くのです。

そのため、もし今回、時間がない中で共和党が無理をして、保守派の判事を就任させ、最高裁の保守化が決定づけられた場合は、とくに中道派の有権者はこれを嫌気して、大統領選と、同日実施の議会選挙で、民主党を勝たせる方向へ向かう可能性が高くなります。

米国は、保守の共和党、リベラルの民主党という二大政党制が定着した国ですが、米国の有権者は、保守、リベラル、そして中道派(centrists)と呼ばれる浮動票(swing voters)の人が、それぞれ3分の1を占める形にきれいに分かれており、この中道派に嫌われると誰も選挙に勝てない事情があります。

つまり、もし共和党が選挙前に保守派の判事を最高裁にねじ込んだりすれば、共和党は今度の選挙で勝てなくなる可能性が高くなるということなのです。

共和党の上院議員は、この力学をよく分かっているため、すでに院内の空気が微妙になっています。

上院の定員は100議席で、現在共和党は53名と過半数を占めていますが、4名が造反しただけで、人事案が否決される状態であり、実際にすでに、選挙前に新判事を決めることに対して、2名が反対、38名が態度を保留する異常事態になっています(参考記事)。ここで判断を間違えると、自分の首が飛ぶ人もいるので、みな必死です。

今後の行方は本当に見通せませんが、ありえそうなシナリオとしては下記の3つの方向性が考えられます。

  1. 共和党が選挙前に新判事を決め、今後20年以上にわたって米国という国を保守色の強い国に復興・変革させるレールを敷くが、その代償として今度の選挙で大敗する。
  2. 共和党が無理せず選挙後に新判事を決めることにするが、上院では勝ったものの、大統領選で民主党のバイデンが勝ち、結局、リベラルの判事を泥仕合のヒアリングの末、承認。
  3. 共和党が選挙前に新判事を決めようとするが、上院の造反で否決、共和党は権威失墜して有権者の信頼をなくし、上院と大統領選でも僅差で敗北、中道寄りリベラルの新判事が承認される。

現在の上院・共和党指導部のミッチ・マコネル院内総務は、もともと最高裁人事を通して米国を保守化させていくことに執念を燃やしている人のようなので(下記動画参照)、選挙を犠牲にしてでも「1」のシナリオで突き進む可能性があります。

トランプ大統領も、何だかんだ言って老獪なので、「1」を避けるかと思っていたら、今週中にも判事候補を公表する様子なので、今のところ「1」の可能性が高まっています。ただ、議会工作に失敗すれば、「3」のサプライズもありえます。この場合、選挙を目前にして共和党はガタガタになります。

大統領選挙と米国株投資

長期でバリュー投資をしている人にとって、大統領選挙はノイズかもしれません。しかし、共和党と民主党のどちらが勝つかは、セクターや業種ごとに微妙なトレンドの変化をもたらします。

私が個人的に気になっていて、おそらく結構多くの米国株投資家の方が気にしているのは、民主党政権ができる公算が高いなら、クリーンエネルギー株を仕込んでおきたいということではないかと思います。

選挙は水物ですが、最高裁人事をめぐり共和党が自滅する方向に傾き出したことと、S&P500が現職再選にとって不利と言われる下降トレンドに入ってきたことで(下記参照)、この数日で、民主党政権誕生に向けて、クリーンエネルギー株を仕込む事前準備を本格化させようと思うようになりました。

きのうは、ニコラ(NKLA)のCEOが突如辞任して、クリーンエネルギー関連株に動揺が走りましたが、この業界は長期的にも伸びしろが非常に大きいと思っています。

しかし、企業毎の浮沈も大きく、きのうのニコラのようなことこともあるので、注意深く銘柄選定を進める必要性を痛感しています。今のところ、プラグパワー(PLUG)、ネクステラ・エナジー(NEE)、エンフェーズ・エナジー(ENPH)などのリサーチを進めており、今後も引き続き、ここで進捗を共有したいと思っています。

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