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米最高裁ギンズバーグ判事が死去 新判事の人事をめぐり、財政政策の議会審議が頓挫か

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米最高裁のバランスが崩れる恐れ

米最高裁判事のルース・ギンズバーグ氏が18日、膵臓がんのため、87歳で死去しました。

米最高裁は、判事の定員が9名で、いままでは保守5名、リベラル4名の状態にあり、ギンズバーグ氏はリベラルの旗手でした。

最高裁判事は、大統領が指名し、上院の承認によって決定します。現在、大統領は保守の共和党トランプ氏、上院も保守の共和党が過半数を占めているので、大統領選と議会選挙を実施する11月より前に新判事を決めれば、最高裁の保守とリベラルのバランスが崩れることが予想されます。

そのため、民主党は、大統領選前に新判事を決めることに猛反発し、共和党は、大統領選前に新判事を決める方向で調整に入っており、すでに激しい政争が始まっています。

米最高裁の絶大な影響力

三権のうち、司法権というのは最も地味ですが、他の立法権、行政権と同等の権限を与えられているので、決して軽く見ることはできません。

実際のところ、最高裁判事の任期は終身なので、大統領や連邦議員と比べても、判決を通して、米国という国の姿を時間をかけて変えてしまう大きな力を持っています。亡くなったギンズバーグ氏も27年間、最高裁判事を務めました。

そのため、11月の選挙前に新判事を決めれば、米国がより保守色の強い国に変質していくレールが敷かれることになります。

また仮に、共和党が無理をせず、11月の選挙後に新判事を決めることにしたとしても、選挙でトランプ氏が再選され、上院で再び共和党が過半数をとれば、11月以降に同じシナリオが展開することになります。

さらに、保守とリベラルのバランスという意味では、新たに最高齢となったのは、82歳のスティーブン・プライヤー判事で、この人は民主党のクリントン政権で任命されたリベラルです。

そのため、ブライヤー氏に対しては不謹慎な話になってしまいますが、11月の選挙で共和党が勝てば、米国という国が極めて保守的な国に変質していく固定路線が敷かれる可能性が高まることになります。

過去には、クリントン政権もオバマ政権も二期務め、民主党政権がリベラルの最高裁判事を指名できる時間的な余裕は十分にあったのですが、いろいろな偶然が重なり、現在のような不思議なお膳立てが整う結果となりました。

新型コロナ対策法案の審議に影響

そこで、今回のギンズバーグ氏逝去に伴う最高裁人事の問題が、米国株投資にとってどのような意味があるのか考えてみたいと思います。

まず短期スパンで考えると、今後しばらくは、新型コロナ対策の予算案を落ち着いて審議できる政治環境がなくなってしまったということが言えます。議会に、最高裁判事の人事という「爆弾」が放り込まれたので、それどころでなくなったということです。

先日、FRBのパウエル議長は、金融政策だけでは、現在の窮地を脱することはできないので、財政政策の方も頑張って欲しいと、議会に向けてシグナルを送りましたが、残念ながらこの望みも当分はかなわなくなった可能性が高いです。

その意味では、11月の選挙で決まる大統領と議会の新体制が始まるのは来年1月下旬ですから、このときまで、実体経済が改善する見込みは低くなったと考えることができます。

また、今回の出来事を長期スパンで考えると、米国という国が保守の方向へ強く傾斜していく可能性が出てきたということです。

具体的には、米中冷戦はますます激しくなり、デカップリングもさらに進行するということです。このこと自体は悪いことばかりではないと思いますが、懸念されることもあります。

それは、IT産業に対して、保守の共和党の方が規制強化に積極的で、リベラルの民主党の方が規制緩和に積極的なので、米国が保守化すると、米国のIT産業の競争力が削がれるということです。これは、具体的にはGAFAMへの反トラスト法の適用などにも現れてくる問題です。

IT分野では、中国が米国を激しく追い上げているため、今後、米国でIT産業への締め付けが進むと、米中冷戦が深化するなかで、米国が不利な戦いを強いられるようなことも起きるでしょう。

いずれにしろ、今後しばらく米国については、この最高裁の新判事の人事のニュースで持ち切りになると思います。

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