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中国が抱える領土問題と地政学リスク

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米中関係が緊張しています。このサイトでは、いままで中国と世界各国の経済的な対立関係について書くことが多かったので、きょうは軍事的な対立関係について書いてみたいと思います。言い換えると、中国ファクターの地政学リスクと言ってもいいかもしれません。

中国が抱える領土問題

中国は、その地理的な条件からも、多くの周辺国と領土問題、係争問題を抱えています。その主な問題と地政学リスクについて取り上げます。

南太平洋地域

中国は、東シナ海では尖閣諸島をめぐって日本と係争関係にあり、南シナ海では、南沙諸島、西沙諸島などをめぐって、フィリピン、マレーシア、ベトナムなどと係争関係にあります。

昔は領有権を主張するだけだったのですが、最近では自国の船舶や軍艦を周囲に航行させるなど、実力を行使する示威行動も増えてきました。

この地域での対立は、おのずと米国との直接対決を招く点に最大の特徴があります。

その理由は、米国が太平洋全域を「自国の庭」のように考えており、とくに南太平洋地域を戦略拠点と考えているためです、

米国が、どれほど本気で南太平洋地域にコミットしているかは、かつて日本がこの地域でエネルギー資源の獲得を試みていたことで米国の逆鱗に触れ、第二次世界大戦の太平洋戦線、つまり太平洋戦争の火蓋が切られたことを思い出せば容易に想像がつくと思います。

米国は、北米大陸に壮大な領土を築き上げていますが、その両側を大洋に接しており、伝統的に海上貿易への依存度も高く、基本的に「海洋国家」として捉える必要があります。

そして大西洋は、気心の知れた「兄貴」である英国が向こう岸に控えていますから、米国の視線は自ずと、常に太平洋に向いていることに注意しなければなりません。

アジアの視線で世界地図を見ると、米国は太平洋の遥か彼方にある大陸国家と映るかもしれませんが、米国から見ると、太平洋は自分の経済利権を左右する庭先なのです。

この感覚を忘れて、フラフラと南太平洋などに軍艦を巡回させることは、米国の神経を逆なですることになります。

最近でも、ポンペオ米国務長官が南太平洋地域における中国の領有権を一切認めないとする発言をしましたが、これは日本を始めとするアジアの同盟国を守るための発言というよりも、米国の経済利権を侵犯するなよという直接の警告です。

現在の中国の行動パターンを見ていると、この米国のピリピリした本気度を深く理解していないように感じます。中国は、リスク計算を正確にできていない可能性があります。

中国・インド・パキスタン国境地域

中国、インド、パキスタンの三国は、互いに国境を接しています。そして、この三国の関係は非常に複雑です。

もともとインドとパキスタンは一つの国でした。しかし、インドはヒンズー教徒が多数派、パキスタン地域はイスラム教徒が多数派という事情があり、インドが英国から独立した1947年に、パキスタンがインドから分離独立する形で、二つの国に分かれました。

有名はカシミール紛争は、こうした二国間の固有の関係に起因しています。両国は過去に5回の武力衝突を経験しており、両国は今も一定の緊張関係にあります。

また、インドと中国はもともと友好関係にありましたが、1950年代以降、チベットの領有権をめぐって国境紛争を抱え込むことになりました。1962年には、大規模な軍事衝突を経験しています。

そして最も大事な点は、この中国、インド、パキスタンの三国間の国境紛争は、一見ただの地域紛争に見えるのですが、実は世界的な広がりを持ったハイリスクの紛争だという点です。理由は二つあります。

第一の理由は、この三国が全て核保有国だということです。国のスケール感として一番小さいパキスタンは、インド以上の弾頭数を保有しているとも言われています。

第二の理由は、三国のうちパキスタンが最も目立たないけれども、実はこの国が世界の安全保障のカギを握る一番重要な立ち位置にいるということです。

パキスタンは、アフガニスタンの隣国で、かつてはイスラム過激派が多くの拠点を築いていました。御存知の通り、オサマ・ビンラディンもパキスタンの都市部に隠れていました。

また、アフガニスタンとの国境地帯には、かつて「(連邦直轄)部族地域」と呼ばれた地域があり、ここにはいまも十分に中央政府の実効支配が及んでおらず、いつまた過激派の温床の拠点になるかわからないといった不安要素があります。

このような事情があるため、米国はパキスタンを対テロ戦争の戦略拠点とみなし、いまも多くのリソースを投入しています。

また、パキスタンはインドと対立関係にあるため、敵の敵は味方ということで、中国と蜜月関係にあります。そのため、米国は二重の意味で、パキスタンの動向を注視せざるを得ない状況にあります。

こうした事情により、中国・インド・パキスタンの三国間の緊張関係は、導火線に火が付きそうな状態がずっと続いており、なおかつその導火線の先には核兵器があり、さらに米国の対テロ戦争の命運が横たわっているという見方ができます。

中国・インド・パキスタンの国境紛争は単なる地域紛争ではなく、アジアの火薬庫、世界の火薬庫といったポテンシャルのある紛争なのです。

香港

香港については過去の投稿「香港問題における「二重のねじれ」」で詳しく書きましたが、この問題がややこしいのは、ふつうに考えれば、香港はもともと中国の固有の領土だから一国二制度はおかしい、中国政府の言い分は正しいという結論を出さざるを得ない点にあります。

植民地は、当然、母国に返還すべきだからです。アヘン戦争以降の経緯を考えれば、賠償金を中国政府に払っても然るべき話です。

しかし、この問題がそう単純に割り切れないのは、中国が一党独裁主義を捨てず、それをこの民主主義が根付いた土地に、無理やり強制しようとしているためです。

基本的人権の尊重というのは全人類に共通する普遍的理念なので、これを無視すると、その政府は一切の正当性を失ってしまいます。そこを中国政府は、どうしても理解できないようです。

中国が今回、国家安全維持法を施行して、弾圧を強化したことで、一見したところ中国政府の思ったとおりに事が進んでいくように見えますが、このまま西側諸国が黙って見ているとはとても思えません。

台湾

香港の次は、台湾が併合されるのではないかという報道もありますが、その可能性はゼロに近いと思います。

理由は、台湾と中国本土は130キロメートルも離れており、米国の警戒を欺いて軍事侵攻することは物理的に難しいという事情があるからです。

また、経済的な観点からも、中国も台湾に対して大きな経済利権を抱えており、これを毀損することは中国にとっても損失であること、また国際社会全体も台湾に対して大きな経済利権を抱えており、これを毀損すれば、中国は全世界を敵に回すことになることなどが理由として挙げられます。

ただ、中国と台湾が一つの国になる可能性がないかと言うと、そうは言い切れないと思っています。たとえば、もし中国が今後、複数政党制を採用した場合、中国本土の選挙に、台湾に好意的な政党が政治参加する余地が生まれ、内側から中国が統合する機運が生まれる可能性があります。

荒唐無稽なシナリオかもしれませんが、中国の一党独裁体制というのは、かなり無理のある不自然な政治体制なので、急に変化が起きても不思議ではないと考えています。

中国が多くの領土問題を抱えている理由

中国がこのように多くの領土問題を抱えているのには、三つ理由があると思います。

第一の理由は、中国の地理的な配置です。地政学的条件と言い換えてもいいかもしれません。

周囲の多くを他国と地続きで接しており、その全ての国境を誰からも不満が出ないように画定することは至難の業です。語弊のある言い方かもしれませんが、多くの国と係争問題があるのはむしろ自然と言ってもいいのではないかと思います。

第二の理由は、中華思想という言葉に代表されるように、中国は自らを世界の中心のナンバーワンと本気で考えており、他国と問題が起きたときも妥協したり、譲歩したりする発想が最初からなく、少なくとも中国側には問題解決の意思がないということです。

確かに中国は、大航海時代より前はナンバーワンの経済大国でした。アジアでナンバーワンだったことは議論の余地はないと思いますが、当時の欧州諸国と比べても、経済、軍事、文化のすべての点において、相対的に優れていたのです。

この「自分はナンバーワン」という感覚は、日本人には理解できないと思いますが、米国や英国のような覇権国に共通して見られる自然なマインドセットです。大事なのは、そこに悪気はないという点です。しかし、問題解決を困難にするのは事実だと思います。

第三の理由は、やはり膨張主義的な考えを持っているということです。この背景には、攻撃的、侵略的な動機だけでなく、自己防御のために外へ膨張せざるを得ないという防衛的な動機もあります。このあたりは、島国で、海が自然の防御壁になっている日本には想像にくいかもしれません。

ただこの膨張主義は、南太平洋では、結果的に米国との対立を招いており、中国が、米国がどこまで本気で太平洋の利権にコミットしているか正確に計算できていないことから、今後、危機的な事態を招く可能性があると考えています。

中国が多くの国と領土問題を抱えている理由は以上となりますが、次回は、これらの問題が実際に戦争に発展する可能性があるのか、とくに米中間の軍事衝突が起きる可能性はあるのかということについて考えてみたいと思います。

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