民主党の大統領候補、ジョー・バイデン氏が、自身のランニング・メイト、つまり副大統領候補にカマラ・ハリス氏(Kamala Harris)を選びました。
この決定は、大きく民主党に有利に作用します。またこの人は、将来の大統領候補としても、今から注目しておくべき人物です。
きょうはその理由も含め、カマラ・ハリスという人物について考えてみたいと思います。
カマラ・ハリスとは何者か
カマラ・ハリス氏は、55歳の黒人女性です。父親はジャマイカ系の経済学教授、母親はインド系の医学者でした。そして旦那さんはユダヤ系の弁護士です。米国の多様性を体現したような人だと言って良いでしょう。
検察官としてのキャリアを歩み、これまでサンフランシスコの地方検事、カリフォルニア州の司法長官を務め、2017年からはカリフォルニア州選出の上院議員を務めています。
この職歴で分かることは、この人がただの政治家ではなく、高い行政能力を持った能吏としての側面も持っているということです。
いくつか動画をお見せしたいと思います。まずは、カマラ・ハリス氏がどのような人かというパーソナルな一面が分かる動画です。
一言で言えば、陽気なおばさんです。ただどこか洗練されており、母親はインド系でも、自分は黒人だというアイデンティティをアピールする選曲には、絶妙な政治センスを感じます。
次に、仕事をしている場面です。上院議員として、ウイリアム・バー司法長官を議会の公聴会に呼んで質問をしている時の様子です。
また、大統領候補としてバイデンなどと競い合っていたときは、バイデンをやり込める場面もありました。
見て分かる通り、敵に回すと怖い人物だということが分かります。さすが元検事という感じで、検索すると、ほかにも政府高官を公聴会でボコボコにしている動画がたくさん出てきます。ここから、カマラ・ハリスという人が、政治家として鋭い牙を持った人物であることが分かります。
政策的にはどうなのか

カマラ・ハリスの社会政策
リベラルな民主党において、検事時代の仕事ぶりを見ると、保守的で中道寄りの考え方する人だということが分かります。
また、純粋な法律家というよりも、再犯率を下げることを重視するなど、検事のときから政治家的な思考があったことが分かります。
また当然のことながら、人種問題には非常に敏感であり、現在の人種暴動の収拾などに力を発揮する可能性があります。
カマラ・ハリスの経済政策
経済政策については、法律家としてキャリアを歩んできたため、その主義主張がわかるような具体的情報はあまりありません。
米中貿易摩擦についても、不公平な貿易慣行は是正すべきとしながらも、当然、トランプ政権の手法を支持する発言はありません。
いずれの場合も、行政官としてのキャリアが長いため、イデオロギー色の薄い実利重視の政策を取ることが予想されます。
エネルギー政策については、クリーンエネルギーの導入に前向きで、バイデンと同様、気候変動対策のパリ条約にも復帰する意向です。
カマラ・ハリスの外交政策
外交政策については、上院議員になってから実務的な接点ができたので、独自の立場というのはまだ見えてきません。
バイデンが、もともと外交の専門家なので、バイデン政権ができたら、当面バイデンと同じ立場を取るのではないかと思われます。
結果的に、政権としては民主党の伝統的な考え方にまとまる可能性が高く、孤立主義ではなく国際協調主義、嫌中ではなく親中に寄っていく公算が高いです。
ただ、人権重視の法律家ということで、中国の人権問題には敏感です。香港についても、民主活動家を支持することを明言しています。そのため、経済問題でも、個人的に中国に当たりの強い政策アプローチを取る可能性はあります。
今後の展望

カマラ・ハリス氏が民主党の副大統領に選ばれたことで、ここで新たに二つの展開が大統領選挙に芽生えたように思います。
民主党勝利の可能性が高まる
今回の正式発表前には、カマラ・ハリスが最有力候補と見なされながらも、バイデンはカマラ・ハリスを副大統領候補に指名しないのではないかという憶測がありました。
それは、彼女が非常に優秀で、人気があり、自分の存在が霞んでしまう恐れがあるからです。
元を正せば、彼女は副大統領候補ではなく、大統領候補でした。彼女の支持者には、「カマラ・ハリスには副大統領の適性がない。なぜなら、彼女には大統領の適性があるからだ」と言う人もいます。この人物評がすべてを物語っています。
それが今回、バイデンが英断を下したことで、バイデン自身の株も上がり、民主党に勢いがつきました。
またバイデンとの組合わせという意味では、カマラ・ハリスは黒人の女性で、しかも移民二世であることから、WASPのバイデンが取れない票を取れる資質を持っています。
さらに保守寄りということで、トランプに嫌気が差した共和党の保守本流の票も取れるかもしれません。選挙戦略的にも非常に賢明な選択だったと言えます。
近いうちに大統領になるかも
バイデンは77歳と高齢で、健康不安もあります(参考:「高齢化問題:古くて新しい投資アジェンダ」)。そのため、今回の副大統領指名は、バイデンには大変失礼ですが、実質的に大統領候補の指名に準ずる重みがあります。
普通に考えると、任期途中でバイデンが降板する可能性は低いですが、二期目の出馬を見送り、カマラ・ハリスに禅譲する可能性はあるように思います。その意味で、今回の副大統領候補の指名のニュースは、含みの大きい重大なニュースだと言えます。
米国では、いまだに人種暴動が収まらず、国内世論の分断も深刻ですが、米国を再び統合していく潜在能力を持った人物だと思います。
しかし、国政では3年のキャリアしかないため未知数の部分も少なくありません。それは、今後少しずつ明らかになっていくものと思われます。