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周庭氏の逮捕劇:人質司法で中国の一人勝ちか

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周庭氏の逮捕劇は世界中に衝撃を与えました。保釈されたと安心している人がいますが、これは起訴する前の通常の段取りであって、これから起訴、再収監となる可能性が高いのです。

周庭氏はパスポートを没収され、9月1日に警察当局に出頭するよう言い渡されています。今後の動向は、米中冷戦の行方を変える力もあります。きょうは、この点を深堀りします。

香港民主活動の「女神」の実像

こういう言い方はかえって差別的かもしれませんが、今回、あのような若い女性がいきなり夜中に身柄拘束されて、警察当局に連行されていく姿を見せられたのは、映像としてショッキングでした。

しかも、保釈後、周庭氏が日本語で、「今まで4回逮捕されたが、正直、今回は一番怖かった。一番きつかった」と語ったる姿は、多くの日本人に感情的に訴えかけるものがあったのではないかと思います。

他方、彼女は17歳の高校生の時に民主活動に身を投じ、以来、香港の民主活動の中心メンバーとして、活動の先頭を走ってきた筋金入りの闘士です。

いまもまだ23歳ですが、その童顔とは裏腹に、その穏やかながらもはっきりした物言いは、その内側に、中国当局の恫喝にひるまない豪胆さを忍ばせていることをうかがわせられます。

また記者が集まると、中国語、英語、日本語の三ヶ国語でよどみなく、分かりやすく情報発信する姿は、卓越した聡明さを感じさせ、活動のリーダーに推された理由がわかります。

そして、これだけの胆力、知性を兼ね備えていながら、肩から力が抜けているのは、どこか天性の資質さえ感じさせます。

人質司法で米国が悪者に仕立てられる?

そんな周庭氏は、今後正式に起訴され、実刑判決で再収監される可能性があります。

そして最も恐ろしいのは、今回の逮捕の根拠となった香港国家安全法の規定に具体性が欠けており、これが当局によって、いかようにも適用されてしまうという点です。

つまり、どのような罪で、どのような刑罰が課されるかは、当局のさじ加減ひとつなのです。

そのため、ここに「人質司法」と呼ばれるメカニズムが出来上がってしまったと言われています。

つまり、米国が強めの対抗手段に出たら、中国当局はそれに合わせて周庭氏の刑期を長くしたりできるのです。いったん釈放して、再逮捕といったことも自由にできます。

そのため、今後、米国の方が追い詰められて、両手を縛られてしまう可能性もあります。

なぜなら、言い方は語弊があるかもしれませんが、米国が強硬手段に出れば、自動的に、若い女性が苦痛を味わう映像が全世界に流れるという「人質司法」の仕組みを、中国側が作り上げたからです。

そうすると中国側は、米国が周庭氏をイジメているかのようなイメージさえも作ることができるのです。

香港の民主活動家をどうすればよいのか

こうした「人質司法」のゲームをやめさせるには、どうすればよいのでしょうか。

一つの方法は、周庭氏をはじめとする香港の民主派を、米国をはじめとする西側諸国に亡命させて、香港を完全に中国に明け渡してしまう方法があります。

ただ、これがまさに中国のゴールなので、中国の思う壺でもあります。

天安門事件のときの主だった活動家は、みな西側に亡命しました。当時、いまの周庭のような「民主活動の女神」としての立ち位置にいた柴玲も、いまはボストンで生活しています。

彼ら、彼女たちは命がけでベストを尽くしましたが、最終的には中国政府が勝利しました。

現在の米中冷戦は、長期的には米国の勝利に終わるでしょう。なぜなら、経済的なサプライチェーンが米中間で分断(デカップリング)して、最も大きな痛手を負うのは中国だからです。

しかし、香港問題は今後数ヶ月で帰趨が決まる短期スパンの問題です。喫緊の課題として、民主活動家をどのように守るかということを考える必要があります。亡命の準備だけでなく、金銭面、法律面など、あらゆる形の後方支援を実施することが求められます。

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