国家の三権とは、立法、行政、司法の三つの権力のことです。そして、報道機関、ジャーナリズムが「第四権力」と呼ばれたこともありました。
近年では、グーグルの元CEO、エリック・シュミット氏が、SNSを「第五権力」と呼んだことが記憶に新しいところです。
こうした背景があるなか、今年7月にはGAFAのCEOが、米下院に反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで召喚されました。そして今月28日には、フェイスブック、ツイッター、グーグルのCEOが米上院に召喚されることになりました(参考記事)。
これらの一連の動きを観察すると、政府とGAFA、SNS大手の間の対立が深まっていることが感じ取られます。そしてここには、政府による規制強化という次元を超えた権力闘争のような雰囲気さえも感じられます。きょうは、この両者の対立の行方、着地点について考えます。
「第五権力」に対する政治圧力
先日、米上院は、フェイスブック、ツイッター、グーグルの各社CEOを、今月28日に公聴会に召喚する決定を下しました。
理由は、通信品位法(Communications Decency Act)という法律に基づき、各社が投稿を適切に管理していない疑いがあるので、この問題について証言をさせるというものです。
民主党は、各社が「デマなどを野放しにしている」と言っていますが、共和党は「保守的な意見を抑圧している」と主張しており、事態が政治化していることを感じます。
これに先立ち、7月には米下院が、アマゾン、アップル、グーグル、フェイスブックの各社CEOを公聴会に召喚して証言を求めました。このときは、反トラスト法(独占禁止法)違反の観点からの召喚でした。
共和党と民主党では、各社への追及において論点が少し違います。民主党は、7月の公聴会では、各社が強大になりすぎたために競争を阻害していると述べ、事業分割の可能性を探りました。
他方、共和党は、議会も大統領も、とくにSNS各社が保守的な意見を抑圧していると言っており、こちらの方が政治色が強い偏向した主張になっています。
いずれにしても共通しているのは、各社の影響力が強くなりすぎたので、これを弱体化させたいという政治意思が透けて見えるところです。
GAFAは弱体化する運命にあるのか
7月の公聴会は、ビデオ会議で行われましたが、大企業のCEOが議会で吊し上げを食うという光景は既視感がありました。リーマンショック直後に、投資銀行・証券各社のCEOが議会に召喚されたときのことが思い出されたのです。
あのときも、各社はかなりきつく絞り上げられましたが、結果的に大きな損害を受けた金融機関はいませんでした。かえって膨大な公的資金が市場に流入したことで、焼け太りのような結果になったと思います。
それでは、今回の三社に対する議会召喚や今後の政治圧力は、IT大手各社にどのような影響を与えるのでしょうか。結論を先に言うと、おそらく一時的にしろ、各社ともに何らかのダメージを受けざるを得ないように思います。
理由は、IT大手各社が反トラスト法に基づいて事業分割を命じられたとしても、一般消費者が損害を受けることがないからです。
リーマンショック直後の金融大手の場合は、たとえ彼らに何らかの責任があったとしても、各社に制裁を加えることは、不況をさらに悪化させ、国民に損害を与えてしまうという事情がありました。それで、制裁を加えることができなかったのです。しかし今回は、そのような力学が働きません。
共和党が主張している「保守的な意見を抑圧している」という点は、特に今度の選挙で民主党が勝てば、影響力を失っていくと思われます。
しかし、現在のIT大手各社が手にしている影響力の大きさは、特に立法権(議会)と行政権(大統領)にとって政治的にも脅威であり、なおかつ各社の影響力を削いでも一般国民には損害が生じないので、このまま反トラスト法をテコに、各社を弱体化させる方向に事が進む可能性が高いです。
米国株投資からの視点 GAFAの先行きは長期的には不透明
1990年代には、マイクロソフトがOSやブラウザを独占しているということで政府に提訴され、その後、和解したことがありました。このときはマイクロソフトに有利な条件で和解できたと評されましたが、それでもこのときに同社が負った傷は深く、この出来事がきっかけでGAFAが台頭したと言われるほどです。
そういう意味で、大きな視点で見れば、反トラスト法の適用は、自由な競争を促し、国民一般、消費者に恩恵を与えると見ることもできますが、GAFAに代表されるIT大手に投資している株主の視点から見れば、心穏やかではありません。
特に最近は、グーグルに反トラスト法が適用されるという報道が相次いでいます。現在の動きが、GAFAなどのIT大手を没落させるとは思いませんが、一時的に弱体化させることはあるのではないかと考えています。GAFAなどへの長期投資も、各社の繁栄は永遠ではないという視点で、注意深く考える必要があると思いました。