人間の悩みの大半は、お金と人間関係に起因すると言われています。
そのため私たちは、どうやってお金を稼ぐかということを考えることが多いわけですが、「お金とは何か」というお金の本質を知らずに、ただ単にお金をどうやって稼ぐかということを追求しても、努力が空回りしてしまうことになるのではないでしょうか。
実際のところ、お金に不自由していない人は、お金の本質を理解しているから、お金を稼げているようにも見えます。
裏を返すと、お金の本質を理解していないと、いつまで経ってもお金を稼げるようにならないのではないかということになります。
そういうわけで、きょうは「お金とは何か」という問題を深堀りしてみたいと思います。
お金がなくても生活できる?
最初に一つ質問をしたいと思います。あなたはなぜ、毎月会社からお給料がもらえるのでしょうか。
それはおそらく、会社の経営者が、あなたが会社に何らかの付加価値を提供したと思っているから、給料を払ってくれているのではないかと思います。
しかし、世の中には、労働の対価をお金以外の対価でもらっている人もいます。たとえば、お相撲さんです。もちろん、現金の報酬もありますが、それ以外の部分が大きいのです。
相撲の世界には谷町(たにまち)という人がいます。谷町というのは、相撲や力士が好きだという理由だけで、具体的な見返りを期待せずに、力士に経済的な支援を提供する人のことです。要は無償スポンサーです。
谷町は、力士にお金を提供する場合もありますが、車や家財道具といった物を提供したり、面倒事の解決といったサービスを提供して、力士の生活を支えています。
そして、もう一つ面白い点は、谷町の支援の動機が、労働の対価というよりも、単に力士が好きだということで、こうした経済活動を行っている点です。
つまり、力士は、単に好かれることによって、お金以外のものをもらって、豊かで不自由のない生活を送っているということです。
このことは、現代の貨幣社会においても、人は単に好かれるだけで、お金がなくても豊かな生活を送れる可能性を示しています。つまり、人は一定の「価値」を提供することで、お金以外の「価値」を対価としてもらって、それだけで生活ができるということです。
以前、この点をホリエモンが掘り下げて説明していたので、その動画を貼っておきます。私は個人的にホリエモンが苦手なのですが、この人は物事の本質を見抜く力があり、ここでの議論もなかなか面白いです。
お金がなくても買物できる?
お金は、物々交換が不便だから発明されたという話を聞いたことがあります。
その真偽は別として、面白いことは、最近、この物々交換が復活していることです。たとえば、ジモティというマッチングアプリが物々交換のサービスを提供し、一定の人気を博しています。
私は、こうした物々交換の復活は一過性のものではなく、今後、少しずつ拡大して、社会に広く定着していくと考えています。
理由は二つあります。一つは、先進国の多くは経済成長率が高止まりしており、今後私たちの収入が上昇していく見込みが薄いからです。簡単に言えば、今後、私たちはお金的には貧乏になっていくということです。
もう一つの理由は、インターネットというのは、瞬時に、無料で、世界中につなぐ特性を持っており、物々交換と非常に相性が良く、この特性が物々交換に特有の不便さを相当程度、低減させる可能性があるからです。
そのため、私は今後、こうした物々交換の裾野が広がり、経済活動全般においても、お金が介在する比率が下がっていくと思っています。
さらに言えば、同じ理由で、いまオンライン・ショッピングでは、代金はお金で払うのが当たり前になっていますが、この支払手段にも、今後はお金以外のものが入ってくると思っています。具体的には、物、サービス、労働、時間などが支払手段として入ってくるように思います。
つまり、簡単に言えば、今後は徐々にお金の必要性、重要性が低下してくるということです。部分的に貨幣経済から切り離されていくという言い方をしてもいいかもしれません。
こうした足元の動きからも、私たちがふだん「お金」と認識しているものは、本質的にはお金ではなく、「価値」なのだということが分かります。
1億円あっても貧乏?
株式投資をやっていると、よくそんな危ないことやってるねと言われることがあります。
そういう人の話を聞いていると、現金が一番安全で、信用できると思っていることが分かります。現金も、株式と同様に、相対的な価値しか持たないという考え方が抜け落ちているのです。
米国株をやっている人は知っていると思いますが、株式の長期スパンにおける期待リターンは、短期スパンの変動リスクを遥かに上回ります。一言で言えば、長期スパンでは、現金は株式に絶対に勝てないのです。
また、お金の価値を考える上で、世の中が将来的にインフレに振れるのか、デフレに振れるのかということを考えておくことも大切です。
インフレになると、物の値段が上がり、お金の価値が下がります。デフレになると、物の値段が下がり、お金の価値が上がります。ですので、高齢者のような年金生活者、貯金だけで生活している人は、インフレになると直撃を受けます。
最近は、FIREなどで早期退職を目指す人もいますが、そういう人も例外ではありません。もっとも、FIREする人はお金に敏い人ばかりなので、この辺は十分承知されていると思いますが…。
ここまでをまとめると、現金は決して安全資産ではないということ、そして自分の資産額の数字も絶対的なものではないということです。
そしてさらに話をすすめると、現金、株式、債券、コモディティ、仮想通貨(暗号資産)、これら全ての価値は相対的だということです。
このように、私たちは何のアンカー(錨)もない世界に生きています。すべてがフワフワしており、常に変動しています。
ですから、私たちは自分にとって本当に大事なものが何かを知り、その価値を正確に知っておくことが決定的に重要になってきます。
これはお金に意味がないとか、そういう話ではありません。物事の表面ではなく、本質を把握することが大切だということです。つまり、それは物事の「価値」です。
きょうは、お金について少し考えてみました。どうやってお金を稼ぐかということをひたすら考え続けることは悪いことではありませんが、その視点だけだとお金に翻弄されて疲れてしまいます。
少し前に、プライスレス(priceless)というキーワードを使ったクレジットカード会社のCMがありましたが、あのCMは本質を突いていたと思います。
私たちは、お金を稼ぐことによってではなく、物事の「価値」を正確に知り、手元の「価値」を大きくすることで、本当の「お金」持ちになるのだと思います。