英語で、実体経済はMain Street、金融経済はWall Streetと言い、米国でも、この二つの概念は区別されています。
実体経済の動向は、企業業績や失業率に現れます。金融経済の動向は、代表的なものとして株価に現れます。
常識で考えると、企業業績がよく、失業率が低ければ、社会全体の生産高は上がるから、株価も上がると考えられるでしょう。つまり、この二つは区別はされているけれども、一体のものとして捉えられるはずです。
しかし、現在ご存知の通り、新型コロナウイルスの影響で、米国の実体経済は非常に悪い状態にあるものの、金融経済は概ね好調です。
もし米国株をしていれば、いつ実体経済の影響を受けて、金融経済が不調に陥り、株価が暴落するか心配になることもあるかもしれません。
そういうわけで、きょうは、現在米国で進んでいる実体経済と金融経済の乖離の原因を解き明かしたいと思います。
実体経済が不調、金融経済が好調
新型コロナ問題は、米経済を直撃しました。昨晩は、4-6月期の米国のGDPが、年率換算で前期比、マイナス32.9%だったというショッキングなニュースも入ってきました。雇用も依然として、厳しい状況が続いています。
他方、ご存じの通り、NYダウは2月の底値から既に半値以上に戻しており、NASDAQに至っては史上最高値を更新しています。
なぜ、このような不思議な現象が起きているのでしょうか。米国株に投資していたら、いつ暴落するかと心配になるかもしれません。
業績相場と金融相場
このように、実体経済と金融経済の動きが乖離するのは、なぜなのでしょうか。
実は、このことは新しい問題に見えて、昔からある古いクラシックな問題です。
相場には、業績相場と金融相場という二種類の相場があります。
業績相場は、企業の業績にしたがって形成される相場です。企業業績が良ければ相場も活況を呈し、悪ければ落ち込みます。
これは、私たちが知っている普通の相場観だと思います。
しかし、相場にはこれとは別に、金融相場というものがあります。
金融相場は、市中の金利やマネーの量にしたがって形成される相場です。
金融相場では、市中金利が低く、市中にお金がたくさんあれば、それが市場に流入して、相場は活況を呈します。逆に、金利が高く、お金があまりなければ、市場に入るお金は減り、相場は沈滞します。
言ってみれば、金融相場は、中央銀行の金融政策によって左右されます。
中央銀行は、失業率が増え、デフレ傾向になり、実体経済が悪化すれば、金利を下げたり、量的緩和を実施します。そうすれば、市場に大量のお金が流入し、相場が上昇します。
逆に、失業率が低下し、インフレ傾向になり、実体経済が加熱すれば、量的緩和をやめたり、金利を上げます。そうすれば、市場からお金が吸い上げられて、相場が下落します。
もうお分かりかと思いますが、私たちはいま金融相場の上昇局面にいるのです。もっと正確に言うと、業績相場の最悪期を抜けて、金融相場が始まってちょっと経った時期にいます。
このように謎が解けると、なぜいま実体経済が不調なのに、金融相場が好調なのか分かって少し落ち着きますね。
いまFRBは、どんどん量的緩和をするだけでなく、財務省が承認した特別事業体を経由して一般企業にも融資をするなど、雇用情勢を改善し、実体経済を好転させるために、なりふり構わず次々と施策を打っています。
今年の年初には、MMT(現代貨幣理論)は異端の経済学として散々批判されてきたが、いまFRBがやっていることは、限りなくそれに近いものと言えます。
こういう状況であれば、株式市場が活況を呈していても全く不思議ではありません。
今後の展望
現在の金融相場の上昇局面がどのくらい続くのかと言うと、5年は続くという人もいます。それは過去に実体経済が悪いときに、金融経済が好調だった期間がそのくらいあったことがあったからなんですね。
ただ、個別のケースにはそれぞれ固有の事情があり一般化できません。特に今回は、実体経済の悪化を招いた新型コロナ問題が収束するどころか、いまも悪化しているように見えるから要注意です。
いわば大きな穴の空いたバケツに、どんどん水を入れても、水量が減り続けている状態にあり、金融経済の加熱が実体経済の改善のきっかけを作る兆候が見えないのです。
こうしたなか、金(ゴールド)の価格が史上最高の高値を更新し続けており、ドルがどんどん安くなっています。このことは、ドルの信認が疑われ始めたと見ることもできます。
終末論的な展望を持つ経済学者は、これがドル崩壊の始まり、よって世界経済の崩壊の始まりだと言っている人もいます。
崩壊するかどうかは脇においても、現状は決して健全な状態にあるとは言えません。
健全な状態とは、具体的には、インフレ率2%をギリギリ切る状態で、緩やかにGDPが上昇していく状況ですが、現状はこれとは程遠い状態にあります。
そういう意味では、実体経済と金融経済の乖離をことさら気にする必要はないと思いますが、現状は普通の状態ではありませんので、毎日、緊張感を持ってマーケットと向き合う必要はあるのだと思います。