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書評:自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか イアン・ブレマー

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自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか (日本語) 単行本 – 2011/5/25

「市場経済と民主主義はセット」という常識への挑戦

国家の統治の仕方として、常識的に考えれば、経済の自由と政治の自由はセットであり、二つ揃って機能すると考えるのが普通です。

つまり、市場経済と民主主義というのは、二つ揃って初めて機能すると考えるのが普通です。

国を統治する政府の視点から見ても、市場経済を効率よく機能させるためには、企業や個人に広範な自由を与えないと、利潤を追求する上での自由で柔軟な経済活動を行わせることができません。

また、企業や個人の視点から見とても、政府から完全な自由が与えられていなければ、金銭的なインセンティブがないし、実際に自由自在に経済活動を行うことができません。

だから、市場経済と民主主義はセットだと考えられてきたのです。

しかし、この常識を覆したのが中国です。

中国は、市場経済と独裁主義をセットにして、類まれなる経済発展を遂げました。そして、今や世界一の経済大国になろうとしています。

本書を手にとったのは、この謎を解くためでした。

国家資本主義という異形の統治理念

中国という国が不思議なのは、一党独裁体制を敷いて、国民の人権に大きな制限をかけているにも関わらず、経済に勢いがあり、一見したところ国民の多くが喜々として労働に従事している点です。

本書は、この謎に対して、「国家資本主義」というキーワードを使って、謎解きをしています。

国家資本主義というのは、生産活動のエンジンが、企業や個人の自由ではなく、政府の強制的な政治権力にある資本主義のことをいいます。

この切り口で考えると、中国も、一党独裁体制に由来する絶対的な政治権力を使って、半ば強制的に企業や個人を経済活動に動員し、現在の経済発展を実現したと考えることができます。

なぜ、このような強引なやり方に国民が反抗しなかったのか不思議な気がしますが、よく考えると納得がいく部分もあります。

たとえば、かつての戦後日本では、大蔵省が民間のメガバンクを事実上支配し、企業融資の方針を取り仕切っていました。

通産省は大企業に研究開発の方向性を指示して、産業政策を取り仕切っていました。

日本も昔は、このように政府が市場にガッツリ介入しながら、高度成長を達成した経緯があるのです。

いまの中国の姿は、これと似てなくもないです。

また、大企業で良い給料をもらっている人は、メチャクチャなパワハラにあっても、我慢して勤め上げ、結果的にその会社の発展に貢献するということもあるでしょう。

失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、今の中国の人たちにも、似たような心境の人がいるのかもしれません。

このように考えていくと、独裁体制と市場経済という取り合わせが、うまく機能する理由が分からなくもないという気がしてきました。

国家資本主義の未来

本書の原著が書かれたのは、ちょうど今から10年前で、本書では、いわゆる新興国の台頭も、国家資本主義の切り口で分析しています。

ここで興味深いのは、その後、新興国の大半は勢いを失い、中国だけが成長のモメンタムを失わなかったことです。

新興国の多くが勢いを失ったのは、おもに米国の緩和マネーの流入が減ったからでした。一言で言えば、米国頼りだったということです。

他方、なぜ中国がこのあとも成長を続けられたかというと、まさに国家資本主義によって、海外資本の流出入を規制し、為替市場に介入していたからでした。

つまり、自由な経済活動を許さなかったお陰で、成長を継続できたのです。

ただ中国は、米国市場を巨大な資本市場として利用し、それを足がかりに発展を継続できてきた側面もあります。つまり、おいしいとこ取りをしてきたわけです。

現在、米中経済のデカップリング(分離、分裂)が進行しており、今後、中国は自らの経済圏の中だけで経済を発展させ続けていかなければなりません。

本当にそれが可能なのか。国家資本主義の真価が問われるのは、これからという気がします。

自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか (日本語) 単行本 – 2011/5/25

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