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書評:投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識 ハワード・マークス

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投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識 (日本語) 単行本 – 2012/10/23

ウォーレン・バフェットが絶賛し、バークシャー・ハサウェイの株主総会で配布したという触れ込みの本。私は最近買って読んだのですが、すでに日本語版が22刷になっているので、日本でも非常に多くの一般投資家が買って読んだことが分かります。

著者のハワード・マークス氏は、自ら投資会社を運営する実務家。約6.2兆円を債券などで運用し、大変な成功を収めているので、言葉に重みがあります。きょうは、この本を見ていきます。

20の教えの内容

「一番大切な教え」が20個もあるというは、最初から圧倒されますが、列挙すると以下のようになります。

1 二次的思考をめぐらす
2 市場の効率性(とその限界)を理解する
3 バリュー投資を行う
4 価格と価値の関係性に目を向ける
5 リスクを理解する
6 リスクを認識する
7 リスクをコントロールする
8 サイクルに注意を向ける
9 振り子を意識する
10 心理的要因の悪影響をかわす
11 逆張りをする
12 掘り出し物を見つける
13 我慢強くチャンスを待つ
14 無知を知る
15 今どこにいるのかを感じとる
16 運の影響力を認識する
17 ディフェンシブに投資する
18 落とし穴を避ける
19 付加価値を生み出す
20 すべての極意をまとめて実践する

最後の20番目に、「すべての極意をまとめて実践する」とあるように、著者のマークス氏は、これら20個の教えに特に序列をつけることなく、これら20個がそれぞれ等価に大切だと言っているように思われます。

しかし、20個の物事をすべて覚えて、常に同時に実行することは大変です。

最近思うことは、投資は、スポーツや楽器の習得に似ているということです。

たとえば、棒高跳びの選手は、助走から踏み切り、ジャンプ、着地に至るまでの一連の動作を、いちいち考えてやっているわけではありません。ただ心を集中させて飛んでいるだけです。

しかし、これらの一連の動作の中には、それぞれ細かい注意点が無数にあり、一つでもその注意点が抜けてしまうと、高い距離を飛ぶことができません。それでも、優秀な選手はこれらをいちいち考えることなく、全てを完璧に実行しているのです。

なぜこのようなことが可能なのかと言うと、長い時間をかけて、数え切れないほどの試行錯誤と練習の中で、その無数の細かい注意点が、その選手の頭脳と肉体の中に血肉化しているからです。

だから、いちいちすべてを考えることなく、自然と身体が動き、高い距離を飛べるわけです。

この20の教えを読んでいて、同じことを感じました。おそらく成功している投資家は、この20の教えを、突然やってくる投資のチャンスのときに、すべて一瞬で実行できるのです。

そして、成功していない人は、この一部しかできないか、全部ができないのでしょう。

つまり、この20の教えを的確に実行するには、本を読むだけではダメで、繰り返しの実践を通して、頭と身体に血肉化させる必要があるということです。

とりあえず本当に大事な教え

そのようなわけで、私にはこの20の教えをすべて覚えることも、実行することも、今すぐにはできないので、今の自分にとって大事だと思われるものをいくつか列挙したいと思います。

二次的思考をめぐらす


二次的思考とは、投資判断において、大多数の人がする表面的な普通の思考から一歩踏み込んで考える鋭敏で深い思考のことです。

一例として、「この企業は減益になるから売り」と考えるのが一次的思考、「しかし減益幅は予想よりも小さく、結果的に株価は上がるので買い」と考えるのが二次的思考です。

私見ですが、この二次的思考という概念は、本書の中で最も大事なキーワードになると思います。確かに、これが常に実行できれば利益を出せると思います。つまり、そのくらい実行するのが難しいという意味です。

市場の効率性(とその限界)を理解する


「全てが織り込み済み」と考える効率的市場仮説は妥当だが、現実の市場には80%程度しか当てはまらず、残りの20%の部分には当てはまらない。この20%には非効率な「市場の歪み」が存在しており、これをうまく利用すると収益化できるとのこと。

効率的市場仮説は、理論として非常に優れた理論だが、理論というものは利用するものであって、自分がそれに支配されるためにあるのではないとも言っています。

価格と価値の関係性に目を向ける


バリュー投資の真髄に関わるポイントですが、価格が価値よりも高い「割高」、価格が価値よりも安い「割安」の概念を正確に理解することを強調。当たり前のことではありますが、価格と価値は別ものだが、市場では互いに関連し合っていること(インターアクション)を指摘しています。

リスクを理解する


投資の世界では、リスクはボラティリティ(変動率)と定義され、ここには「危険」に関する要素は介在しない。しかし、投資において損失を出す危険性を理解することは不可欠なので、一般的に意味に戻って、リスクを危険性と考える見方も必要とのこと。

その意味で、リスク(損失の危険性)の種類、形態、統計上の厳密な発生確率などを正確に理解することが、期待リターンを測る上で重要としています。この中にはボラティリティの要素も自ずと含まれてくるが、リスクはボラティリティだけを指しているのではないことを強調し、そのように理解した方が市場を正確に理解できるし、収益化もしやすいと言っています。

サイクルに注意を向ける


景気の局面によって、経済主体(特に企業、消費者)の行動パターンが、積極から消極、諸曲から積極へと変わっていく点に注目すべき。15番目の「今どこにいるのか感じ取る」こととも関連があり、景気局面のどこにいるかによって、投資の判断もおのずと変わってくることを知るべきとのこと。

振り子を意識する


上がったものは下がる、下がったものは上がる、ということ。平均への回帰、ミーン・リバージョンについて説明してます。これを上手に利用することで、利益を出したり、損失を回避することができるとのこと。

上がったものが、上がり続けることはなく、いつか必ず下がることには、特に注意すべきとのこと。いまの金融相場にも当てはまるかもしれません。

心理的要因の悪影響をかわす


前出の「価格と価値の関係性に目を向ける」にも関係しますが、価格は価値に関係なく乱高下することがあるが、これに心理的にかき乱されてはいけないということ。あくまで価値にフォーカスして投資を行なえということを言っています。

我慢強くチャンスを待つ


何かを「する」ことと同じくらい、何かを「しない」ことも大事ということ。例として、絶好の投資チャンスを逃すことは、確実に損する投資を行うことほど深刻なミスではないという表現が使われています。確信が持てるまで、動くべきではないということになるでしょうか。

無知を知る


自分の知らないことがあるということ。世界には77億人の人が経済活動を行っており、その相互影響を予想することは不可能。その謙遜を持つことが大事ということです。

20番目のまとめの項には、「マクロ経済の動向を予測することは不可能」という主旨の言葉もありました。たしかに判断材料を揃えることはできるが、それで将来の予測を立てることは、係数が多すぎて無理だと思いました。

その中でも一番大切なのは「二次的思考」

この本は非常に濃厚な本なので、何度も読まないと、内容を正確に理解できないところがあります。ただ、今すぐ一番大事なことを一つだけ挙げろと言われたら、おそらくそれは「二次的思考」の概念になるでしょう。

二次的思考を身に付けられれば、効率的市場仮説が浸透していない市場の歪みを嗅ぎ分けることができ、それを収益化する道が拓かれるからです。

ジョージ・ソロスなどがやっているグローバル・マクロという手法は、正にそれを具体化した手法なのかもしれません。ただ、著者のマークス氏は、そういうアクロバティックな手法を推奨しているわけではなく、あくまでバリュー投資を推奨しているものと思われます。

投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識 (日本語) 単行本 – 2012/10/23

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