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EUが歴史的合意 EU共同債発行の意味すること 

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EU(欧州連合)の首脳会議が、日本時間の本日午後、新型コロナ対策の復興基金を創設することで正式合意しました。総額は7500億ユーロ(約92兆円)となります。

この基金の目的は、新型コロナウイルスで大きな被害を被ったイタリアやスペインなどの南欧諸国を支援することと、デジタル経済分野への投資を拡大して、域内の景気浮揚と経済構造の転換を図ることと言われています。

今回の首脳会議では、財政規律を重視する緊縮派の国々(オランダ、オーストリアなど)が、返済不要の無償補助金の拡大に反対して、協議が難航したようです。しかし結局、補助金3900億ユーロ、融資3600億ユーロという内訳で妥結しました。

一見したところ、ふつうの経済ニュースという感じがするかもしれませんが、このニュースには、注目すべき2つのポイントが隠されています。

EU共同債の発行

一つ目のポイントは、この復興基金の原資が全額、債券を発行して市場から調達されるということです。つまり、EU共同債という全く新しい金融商品が、92兆円もの巨大なスケールで市場に登場するということです。

誰もが気になるのは、EU共同債の信用度、つまり価格と利回りです。

EUの最近の動向を振り返ると、ギリシア危機や英国の離脱など、大きな試練があったことが思い出されます。そういう意味では、EUに不信感や頼りないイメージを持つ人もいるかもしれません。

しかし、ギリシア危機は、もともとこれら南欧諸国と、フランス、ドイツ、ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)などのEU母体のオリジナルメンバーとの間に、大きな経済格差があり、また財政規律の厳格さにも非常に大きな隔たりがあったわけで、よく考えれば想定内のことではありました。

英国の離脱も不幸な出来事でしたが、これはもともと、やらなくてもよかった国民投票を、世論の圧力に負けてやってしまった当時のキャメロン内閣の失政で、EUの責任ではありません。

この問題も、英国という国が、最後までユーロを採用しなかったことや、もともと欧州大陸よりも米国との結び付きが強い、アングロサクソン特有の国民性を持つ国だったことを考えると、これも想定内のことだったということが言えます。

EUの起源は、第二次世界大戦直後に、欧州大陸の問題児、ドイツの軍事大国化を防ぐ目的で、その母体である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が作られ、軍事資源を周辺国と共同管理したことにあります。

そうした当初の原始的で露骨な起源から考えると、いまのEUの現状を考えると、その統合の進展と成果には驚くべきものがあるのではないでしょうか。

EU共同債の価格と利回りは、こうした様々な現実を織り込んで決まっていくことになるわけですが、EUの経済規模とEU共同債の発行規模を考えると、非常にインパクトの大きい金融商品として市場に導入されることになると思われます。当然、多くの投資家が購入を検討することになるでしょう。

「EU国」への第一歩

今回のEU首脳会議の合意に関する2つ目のポイントは、これが今後、EUが一つの国家になる第一歩になるのではないかという点です。

EUの加盟国は、ECSCから考えると、最初は6カ国から始まり、いまは27カ国へと大きく増えました。このヨコ方向へのEUの発展をしばしば、EUの「拡大」といいます。

他方、EUの政策統合は、もともとECSCによる工業資源の共同管理から始まり、貿易政策、農業政策の統合へと進み、通貨統合、国境管理の撤廃、安全保障政策の統合、司法政策の統合へと進んでいきました。このタテ方向へのEUの発展をしばしば、EUの「深化」といいます。

そして、今回のEU共同債の発行は、EU深化の最終段階、つまりEUが一つの国家にまとまる第一歩になるのではないかと考えることができます。

理由は、国債発行を含む財政政策は、国家予算の策定のように国民の代表である立法府しか決定できない部分が多く、常識的に考えれば、主権国家の単位でしか決められないと考えられてきたからです。

つまり、今回、EU加盟国が一つの財政政策を、自国の国会ではなく、EUで決定したことは、前代未聞の出来事なのです。

EUでは、多くの加盟国が、すでに単一通貨のユーロを導入しており、これらの国々は金融政策については、自国の中央銀行ではなく、欧州中央銀行(ECB)に下駄を預けた形になっており、すでに金融政策に関する権限の多くを失っています。

しかし、これはそもそも中央銀行というものが、政府から分離した独立機関だったからこそ、可能になったことでした。

しかし今回、EU加盟国は、本来なら自国の国会、つまり自国の国民が決めるべきことを、EUが決めることを許容したのです。

この決定の背景には、EU加盟国の国民は、それぞれの国の国民であると同時に、「EUの国民」でもあるという、EUを一つの国家として考えるEUの未来を先取りする理念があったものと思われます。これをEUの首脳が許容したという点が、前代未聞で、非常に画期的なのです。

今回の動きは、報道では、政治統合、財政統合への第一歩という表現も使われていますが、実質的にはEU国という国家建設への第一歩と言って差し支えない内容です。

EU共同債の発行は歴史的な大ニュース

以上のように、EU共同債が発行されるということは、私たち一般投資家にとって画期的な出来事であると同時に、EUの国家統合への第一歩という側面もあります。そして、後者のポイントは、EU共同債の信任を高める方向にも作用すると思われます。

EUが実際に一つの国家になるには、まだ多少の時間がかかるかもしれません。しかし、世界史を学べば分かる通り、ドイツ、フランス、イタリアは、もともと1つの国家でした。そして、ヨーロッパの人々は、この同質性を精神的にも共有しています。

ですから、EUが一つの国家になるということは、決して夢物語ではないのです。そして、このことは世界経済の動向、私たち投資家の投資環境にも大きな影響を与えます。

地味なニュースかもしれませんが、今回のEU共同債の発行というのは、非常にポテンシャルの大きい歴史的な大ニュースだと思いました。

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